癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
共働きの両親は、平日の昼間は、どちらも、ほとんど家にいなかった。

だから、遙季が高校に入学するまでの春休み期間は、二人にとって至福の時だった。

もちろん勉強がメインだが、心ゆくまで光琉は遙季を可愛がった。

未成年だとか、無責任だとか、親が聞いたら嘆いていたに違いない状況。

しかし、想い合う光琉と遙季には、そんな説教は無意味なほどに満たされた時間だったのだ。

あの事件が起きるまでは,,,。

光琉が高校3年生の5月のある日。

補習を終えたあとも日直の仕事が残っていて、いつもよりも30分以上時間をロスしていた。

慌てて美術室に遙季を迎えに行ったが、そこにはすでに鍵がかけられていた。

違和感を感じて、光琉は鞄からスマホを取り出す。

画面のロックを解除すると、

゛先に帰っとくね゛

という遙季からのメッセージが入っていた。

メッセージの入力は30分前。

いつもの時間に来ない光琉が帰ってしまったと思ったのだろうか?

光琉が急いで玄関まで移動し、くつ箱から靴を取り出していると

そこには、同級生の中村若菜が立っていた。

彼女とは1年生から3年間同じクラス。クラス役員で、何かと一緒に過ごすことも多かった。

「八代くん、クラスマッチのことで相談したいことがあるんだけどいいかな?」

もうすでに遙季は電車に乗ってしまった頃だ。慌てたところで、もう追い付かないだろうと踏んだ光琉は、

「いいけど、何?」

と、若菜の話を聞くことにした。

,,,思えば、あの時走って駅に向かっていれば、自分が事件現場に遭遇し、遙季を助けることができたのかもしれない。

今となっては、全ての行動が若菜の計算だったのだと、光琉には合点がいった。
< 45 / 86 >

この作品をシェア

pagetop