癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
公認心理師は、「心理査定(アセスメント)」「心理面接(カウンセリング)」「関係者への面接」「心の健康に関する教育・情報提供活動」という4つを主な業務としている。

雅祥や光琉のような精神科医は、そうした業務に加え、薬物療法や作業療法、行動認知療法などを処方する。

お互いが専門の役割に徹し、協力することで、チームケアを充実させている。

「みなみちゃん、今日はお絵描きしようか?」

遙季は、光琉の指示で、みなみちゃん7歳女児の知能検査を実施していた。

みなみちゃんは、この春、小学校に入学したが、授業についていけずに発達支援学級に通っている。

今日は学校からの進言で、光琉と遙季の発達外来に来ていた。

光琉が本人、家族と面談をし情報収集したあと、遙季が検査と追加の相談を受ける。

遙季としては、是非とも雅祥と組みたかったのだが、部長である雅祥は忙しい。

この5日間、遙季は何かと光琉と仕事を組まされることが多かった。

今日もその流れ。

「八代先生。これ、結果です」

みなみちゃんは発達が標準よりも遅れてはいるが、要領がつかめないだけで、決して知能が低いわけではない。

根気強く関わることで、今後、劇的に理解が進む可能性が出てきた。

「そう、ありがとう」

発達外来では、てんかん等の持病がなければ、薬の処方は必要ない。

光琉は、電子カルテに所見を記載している。

それに、もうすぐお昼休み。

遙季はウキウキしながら書類を作成していた。

この業務が終わったら、遙季は昼食を摂るつもりだ。

「学校へ、みなみちゃんへの関わり方や学習方法のアドバイスといった内容の情報提供書を書いておきますね」

遙季は、あと数年臨床を経験したら、スクールカウンセラーをしたいと考えている。特に思春期の学生に関わりたい。

「遙季、今日は実家に帰るのか?」

仕事中なのに、私語を持ちかける光琉を遙季は睨んだ。

「勤務中です」

「なら、休憩時間にする」

光琉が、遙季の首もとに鼻を寄せ、匂いを嗅ぐような姿勢で囁いた。

このところの光琉は変だ。

ここ数年、遙季は光琉とうまい具合に距離をとってきたつもりなのに、最近は接触が多すぎる気がする。

「セクハラですよ」

「なら、今朝の鈴村部長もセクハラだな」

「八代先生と一緒にしないでください」

遙季の言葉に光琉が怒ったように眉根を寄せた。

「黙れよ」

光琉が遙季の首元に吸い付いた。

「何すんのよ!」

「マーキング」

「!!!」

光琉は、驚く遙季から顔を離すと

「じゃあ、雪村さん、情報提供書をよろしくお願いしますね」

とニコニコと笑いながら離れていった

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