癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
ピンポーン。
と、雪村家の玄関のベルが鳴る。

「はあーい」

遙季の母・祐子が玄関のインターンのモニターを見ると、隣の八代夫妻が映っていた。

「光琉が話があるって夕べ電話してきてさぁ、折角、康司と出掛けようと思ってたのに」

祐子が鍵を開けると、挨拶もせずに光琉の母・真奈美が雪村宅内に上がりこんできた。父・康司も後に続く。

「まあ、遙季ちゃん、久しぶり!綺麗になったわねぇ」

真奈美が、遙季を見つけると抱きついてきた。

祐子と真奈美は従姉妹。仲が良すぎて隣同士に家を建てるほど仲がいい。

遙季の父・直樹と光琉の父・康司もまた、高校・大学の親友で竹馬の友だ。

「ずっと仲違いしてたのに、今日は光琉と一緒なのね。珍しい」

「それが、どうやら遙季がとうとう落ちたらしいのよ。光琉くん、私の息子になってくれるんだって」

「ええ?!本当?嬉しい!」

「ちょ、ちょっと,,,何のこと?」

抱き合う母親二人に、勝手にウイスキーで乾杯を始める父親二人。

「いやぁ、思いの外、時間がかかったな?」

「すまん、遙季は意外に頑固だからなぁ」

慌てる遙季をよそに、両親達は盛り上がっている。

「ちょっと、光琉、どういうこと?」

「悪いけど、父さんも母さんも静かにしてくれないか?」

光琉の言葉に両家の両親もリビングに着席する。

「俺達、結婚するから」

「ええ?!」

驚く遙季をよそに、

「おめでとう!」

と拍手をする両家の親。

「さ、ここにサインして」

出された婚姻届には既に光琉の名前が書かれている。

すばやくそれを取り上げ、証人の欄に記載する康司と直樹。

「後は遙季が書くだけだ。さあ」

「さあ!」

5人の目が期待で輝いている。ここで書かないと言う選択肢はないのか?

「ごめん、トイレ行ってくる」

遙季はため息をついて席をたった。
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