癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
「とにかく、八代が何を言っても信じちゃいけない。あいつは嘘つきで策士で、最低な男だ。君が奴のお手つきになってしまったのは許せないけど、別れれば忘れてあげるよ」

思い込みの激しい言動に、迷走しそうになっていた遙季の思考が逆に整ってきた。

そうだ、こういうときにこそ冷静にならなければならない。

だいたい、あの策士で計算高い光琉が、浮気現場を見つかるという初歩的なミスを犯すだろうか?

いくら遙季が鈍感とはいえ、光琉は遙季を8年間も監視下においてきたのだ。

それに、金曜日に若菜が見せた涙はとても嘘とは思えない。

遙季は、この際、この男が仕掛けた安直な心理戦に参戦してみようと心に決めた。

「そっか、光琉は若菜さんと,,,。いつからなんだろう?高校のときから?それなら、光琉も最低だけど、若菜さんも大概ですね。あきれちゃう,,,。」

遙季は、心底蔑んだ表情でため息をついてみた。

「いや、若菜は利用されてるだけだよ。八代と再会したのだって最近だと思う」

「私と光琉はずっと離れていたし、その間に何かあっても文句は言えません。光琉は黙ってても女性が寄ってきますし、案外、若菜さんから誘ったのかもしれませんね。あんなナイスバディならどんな男でも魅了しちゃうでしょうし。純情そうにみえて案外尻軽なのかな」

遙季はフーッとため息を漏らした。

「そんなはずはないよ。ああ見えて若菜は一途だからね」

口数が多くなっている努の表情からは若干の焦りと怒りが見える。

「いいえ、きっと、二人はずっと隠れて付き合ってたんでしょうね。そんな二人を私が邪魔しちゃ悪いし、あきらめて二人を応援することにします。教えてくれてありがとうございました」

あっさりと引き下がり、二人を応援すると言った遙季に、努が動揺しているのがわかった。

「だけど、だからといって私とあなたが付き合うことは絶対にありません。それだけは覚えておいてください」

遙季は千円札をテーブルに置くと、バッグを持って立ちあがり店を出た。


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