【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
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「あれ……鍵が壊れちゃってる」
隣のロッカーを使う職場の先輩である守安芽衣子(もりやすめいこ)さんが眉をひそめている。
「あ、本当ですね……」
わたし尾関恵麻(おぜきえま)は、バッグから取り出そうとしていた経済新聞から手をはなし、先輩のロッカーの鍵の部分に触れる。
「グラグラだ」
ねじが緩んでいるだけだろうかと思ったが、どうやら部品が曲がってしまっている。
「これまでずっとだましだまし使ってたんだけど、とうとうダメみたいね」
芽衣子さんは困った顔で、何とか鍵を閉めようとしているがガチャガチャと音がするだけでうまくいかない。
「無理ですよ。総務の人に言って修理を頼まないと」
芽衣子さんはわたしの言葉を聞いて、諦めたようだ。
「とりあえず、空いているロッカー使うことにしよう」
ふたりして周りを見渡すけれど、どこもかしこも誰かが使っている。
「そういえば奥にひとつ空いているロッカーがあったはず。わたしがそこを使うんで、芽衣子さんはここ、使ってください」
わたしは自分のロッカーから荷物を出し、芽衣子さんにこのロッカーを勧める。
「ダメよ。わたしが奥にあるロッカーを使うから」
「いいえ。わたし荷物あまりないですし。先輩にあんな奥のロッカー使わすなんてできませんから!」
「でも……ちょっと、恵麻?」
これ以上芽衣子さんに何も言われないうちに、さっさと荷物を移動させてしまう。
奥の奥にあるロッカーは、他のよりも少し古い。けれど中はハンガーがふたつかかっているだけで、埃もなく綺麗だった。
今日からよろしくね。