【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「尾関さん。ちょっとこっちに」

「……はい」

 まさか、触ってもいない神様から祟りがあるとは。

 幸いにも一瞬歪んでしまった顔は課長には見られていないみたいだ。すぐに立ち上がり課長の元に行く。目の前に座る芽衣子さんがちらっと「お気の毒さま」という顔をわたしに見せた。

「尾関さん、今週の見込みの数字なんだけど。これで大丈夫?」

「あの、えと……はい」

 課長が大丈夫?と尋ねてくるときは、だいたいその数字に不満があるときだ。

「本当に? これだと、ぎりぎりだよね。一件成約できないだけでも、目標にショートするけどわかってる?」

 痛いところを突かれたわたしは、小さくなってうなずくしかない。

「君が一生懸命なのは評価している。細かなミスもないし、それは君のいいところだ。しかし営業たるもの数字で評価される。大口の見込み客の開拓が足りていない。それは以前から話をしているだろう」

 ごもっともです。

 ここ最近、目標の数字が大きくなるにつれて、それを達成するために精一杯だった。それではいつまでたっても、数字に追われる仕事しかできない。

「はい。見込み客の洗い出しをもう一度してみます」

 顔を上げたわたしに、課長はニヤリと黒い笑みを浮かべた。

「今更洗い出しだなんてしなくてもいいじゃないか。ケイウエディングの社長を顧客にすれば、あとはウハウハだろう」

――ウハウハ?
 
 さっきまで厳しい顔をしていた課長だったが、今は嬉々としてわたしに発破をかける。
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