【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
慌てた神永さんが、テーブルにあったナプキンを差し出してくれた。それを受け取りながら抗議した。
「な、なんてこと言うんですか。あれは模擬挙式でしたよね?」
「そう? でもキスもしたし」
にっこりとほほ笑むその顔は、まったく悪びれた様子もない。
「あれは、わたしが許したわけじゃないですから」
唇を尖らせると、神永さんが自分のお皿にあったオリーブをわたしの口に押し込んだ。
「ん……な、なに」
もぐもぐと咀嚼する姿を見て、なんだか彼は満足そうだ。
「餌付けしているみたいで、こういうのもいいね」
楽しそうにしている彼を見て、怒るのが馬鹿らしくなってきた。
そうこうしているうちに、パスタに続き肉料理も運ばれてきた。
メインは鴨の赤ワイン煮で口に入れた瞬間、ほろっと崩れる。
「ん~! おいしい」
思わず顔がほころんでしまう。頬に手をあててほっぺが落ちそうになるの防いだ。
よく赤ワインと一緒に煮込まれたソースは香味野菜の風味が味わいを増していて、お肉にたっぷりつけて大きな口に放り込む。
「そうやっておいしそうにたべてくれると、連れてきてよかったなって思うよ」
わたしが食べているのを確認したあと、彼も食事に手を付けた。
「本当においしいです。幸せ」
お客様との食事だというのに、リラックスしすぎて思わず普段の自分が出てしまう。わたしのなかでそれだけ、神永さんとの距離を近く感じている証拠だ。
これがお客様との付き合いとして正しいのかはわからないけど、今楽しいという気持ちを表すのは決して悪いことではないはず。