【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
「勝手に使わせてもらいますね」

 近くのドラッグストアとスーパーで買い物を終えたわたしは、返事がないのは承知の上で緊急事態につき仕方がないと自分に言い訳をして、キッチンに立っていた。

「わぁ、広い」

 ピカピカのカウンターキッチンはまるで展示場のようだ。最新IH式のコンロに食器洗い機、大きなビルトインオーブンは外国の映画に出てきそう。

 その豪華さに圧倒されて、おもわず見とれてしまいそうになる。

 あわてて本来の目的を思い出し、冷蔵庫を開けた。ミネラルウォーターとビールやワインなどのアルコールがある。

 チョコレートの箱を見つけて、ちょっと意外だなと思ったこと以外は、男の人のひとり暮らしらしい冷蔵庫の中だ。

 そこに買ってきたばかりの経口補水液やフルーツを片付けると、小鍋を取り出して買ってきた材料でスープを作り始めた。

 実家にいたときに風邪を引いたわたしに、母がよく作ってくれたものだ。

「うまくできますように」

 キッチンのカウンターの中を物色して、お鍋や調理器具を取り出す。

 綺麗に整理されているおかげで、すぐに道具がそろって作り始めることができた。

 野菜を細かく刻んで、鳥ガラスープで煮込む。

 ショウガを忘れずに入れることで体が温まる。最後に溶き卵を加えると完成だ。

 時計を見ると神永さんをベッドに寝かせてから、二時間弱が経っている。少し眠れただろうか。

 わたしはそっと寝室のドアを開けて中の様子を窺った。

 扉の隙間から顔を覗かせたわたしに気がついた神永さんが、ゆっくりと目を開いた。

「起こしてしまいましたか?」

「いや、目が覚めていたんだ」

 わたしは部屋に入って、体を起こそうとしていた神永さんの体を支えて手伝った。

「ありがとう。ごめん、こんなことまでしてもらって」

さっきよりもいくぶん呼吸が楽になっているように感じた。よかった。

「放って帰るわけにはいきませんから。これで大きな貸しがでいました」

「怖いな、お礼に何をすればいい?」

 おどけた表情はいつもの神永さんのもので、少し安心した。
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