【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
天井まで届く大きな水槽の前で、わたしはまるで海の底にいるように感じていた。

ガラスの向こうには大きなエイが優雅に泳いでいる。

そしてその周りを小さな魚たちが集団になってまるで演技するかのようにきちんと整列して泳いでいた。

その様子をふたりで眺めていた。

「こういうの見てると、気持ちが穏やかになるな」

話の続きを聞きたくて、彼の方に視線を向けた。

「君も俺も、普段は何かにつけてスピードと結果を求められるだろう? 

こうやって何も考えずにただ一生懸命生きている魚たちを見てるとそれだけでも素晴らしいなって思わない?」

わたしは神永さんが言おうとしていることがなんとなくわかった。

「そうですね。ただ生きているだけでも素晴らしい。それを感じられる今日みたいな時間をもっと作らないといけませんね」

「そういう時間、また一緒につくろうか?」

背中に手が回り、顔をのぞき込まれた。一気に心拍数が上がる。

はずかしいから、顔あんまり見ないでほしい。それともわかってやっているの?

「まぁ、いいですけど……」

ぶっきらぼうに答えた。
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