家庭訪問は恋の始まり
「嘉人さん、先生がお話しないと、みんなが
入学式に行けないの。
お話、聞いてくれるかな。」

「うん、あとでね。
でね、ぼくね、」

うーん、手強い…

でも、後ろにも廊下にも、綺麗に正装した保護者が並ぶから、声を荒げて怒る訳にもいかない。

「瀬崎嘉人さん!」

「はい!」

返事はいいんだけどなぁ…

「今から、1組のみんなで競争をします。
嘉人さんは、がんばれるかな?」

「かけっこ!?
ぼく、かけっこ速いから、絶対勝つよ。」

「残念。かけっこでは、ありません。」

「ええ!? 競争じゃないの?」

「競争は競争でも、誰が1番長くお口に
チャックできるか競争です。
先生のお話が終わるまで、一言もおしゃべり
しなかった子が勝ちです。」

私が言った途端に、嘉人くんは真一文字に口を引き結んだ。

私は、説明をする。

嘉人くんは、一生懸命、我慢する。

うん、やろうと思えばできるじゃん。

私は、少しほっとした。

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