エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
#3 さり気ない優しさ
夕方6時半。いつもより長めの営業事務の会議が終わると、桃子ちゃんを含めて事務の子たちは皆どこか浮かない顔をしてデスクについた。
理由は単純で、私の仕事を皆が引き継ぐことになったからだ。ただでさえ年末に向けて仕事が忙しくなってきているのに、仕事の量が増えて負担に思っているのだろう。
「迷惑かけてごめんね、みんな」
デスクにつくと、私は皆に頭を下げた。
「大丈夫です、先輩。むしろ、私たちが今まで先輩に頼りすぎていたから、しっかりしないといけないんです」
「そうです、私も頑張ります」
みんな口々にそう言うけれど、中高大と女子校で過ごしてきた私には、女子の本音と建前くらいは分かる。「仕事の出来るイケメン」と一緒に仕事をするチャンスを失った上に、自分の仕事量も増える。残業代が多少増える位しかメリットがない。
「仕事は明日から優先順位の高いやつから徐々に引き継いでいくから、今日はもう帰って大丈夫だよ。もう定時も過ぎてるし」
私が時計を指さすと、みんなは申し訳なさそうなふりをして帰る準備を始めた。そわそわとデスクを綺麗にすると、一人、また一人と「お疲れ様でした」と言って帰っていく。桃子ちゃんも気まずそうに頭を下げて帰り、営業事務のデスクに残ったのは、私一人だけになった。
ちらりとフロアを見回すと、営業の人たちは三分の一位が残って仕事をしていた。ITソリューション部といっても、あくまで製品販売がメインで、実際の導入は子会社の仕事になっている。だから世間一般の「ITは激務」というイメージに比べると、緩やかな方だとは思う。
私が一人パソコンに向き合っていると、桃子ちゃんの席の前に誰かが立つのが視界に映った。見上げると、そこには環が立っていた。
「うわ! 環!」
自分でもびっくりするほどの声量が出てしまい、環が唇に人差し指を立てて「静かに」と呟いた。幸い、残っている営業の人たちと営業事務のデスクは距離がある。静かに話せば敬語を使わなくても大丈夫そうだ。