エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
その後、少しだけ沈黙が流れた。遠くから夕焼け小焼けの音楽が聞こえてくる。ぼんやりと音楽に耳を傾けていると、男の子は遠慮がちに私の方を向いて、
「友だちでも知り合いでもないのに、どうして僕のこと助けてくれたの」
と言った。
「それは……なんでだろう。困ってる人を助けなきゃって思ったから」
振り返ると、自分でも凄いことをしたな、と思う。
……そういえば、この男の子を助けたけれど、何も知らないな。
「ねえ、名前はなんて言うの?」
私が問いかけると、男の子はまたぼそっとした声で、
「倉持環」
とだけ答えた。
「どこ小?」
「沓掛小学校」
沓掛小学校といえば、私の学区のすぐ隣の学区にある小学校だ。
「沓掛か、じゃあ私と近いね。私は倉持梓。引田小の5年生」
「僕と同い年か。……君の名前は?」
「私は、森本梓」
倉持くんはちらりと私の顔を見て、そしてまたすぐに顔を逸らした。ぼそぼそとしたしゃべり方だし、前髪と眼鏡のせいであまり表情が分からない。普段から内気な子なんだろうな、と思った。
「そもそも、どうしてあんな状況になったの?」
「猫の世話をしてたら、突然絡まれた」
「猫の世話?」
「茶トラの野良猫があの辺りにいて、いつも世話してる」
時々あの辺りの道を通るけれど、確かに、帰り道に茶トラの野良猫を見かけることが何度もあった。でも、凄く警戒心が強くて、仲良くなろうとして近づいてもすぐに逃げてしまう。
「一度帰り道に見かけたら、あいつ弱ってたんだ。だから、近くの店で餌を買ってきた。最初は警戒されたけど、少し離れた場所で見てたら、食べてくれた。それからずっと世話してる」
それを聞くと、暗そうな見た目に反して律儀で優しい子なんだなあ、と感心してしまう。