エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
帰り道、私の足取りは重かった。
「はあー、これは長期戦だなあ」
 すぐになついてくれるとは思わなかったけれど、あからさまに逃げられると自然と声も落ち込む。

「野良猫は警戒心が強いから。毎日通って慣らしてくしかない」
「本当に慣れてくれるかな」
「……わかんないけど、きっと森本さんなら慣れてくれると思うよ」
「どうして分かるの?」

 倉持くんの顔をのぞき込むと、唇をもぞもぞと動かして、
「なんとなく」
 と呟いた。倉持くんなりに励まそうとしてくれてるんだろうか。

「ねえ、明日も行くの?」
「ああ、行くよ。毎日行ってるから」
「それじゃあ、懐いてくれるまで私も行こうかな」
「……」

 急に倉持くんが地面を見た。もしかして、さすがに毎日は迷惑だっただろうか。やっぱりやめる、という言葉が喉まで出かかると、倉持くんは、
「いいよ」
 と言った。ふと横顔を見ると、心なしか口許が緩んでいる気がする。少しでも明るい表情を見せている倉持くんを始めて見た。倉持くんも笑ったりするんだ。

 少し歩くと、ちょうど目の前の十字路の前で倉持くんが立ち止まった。
「僕の家、こっちだから」
「あ、うん。それじゃあ、また明日、あの場所で」
 私が軽く手を振ると、
「ああ、また明日」
 と今度は倉持くんも手を挙げてくれた。

 こうして、私と環は放課後に猫に餌をあげに行くのが習慣になった。
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