エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「ねえ、倉持くん」
猫と触れ合った帰り道、私はこの一ヶ月ずっと心に思っていたことを伝えようと倉持くんに話しかけた。
「どうしたの」
「環、って呼んでも良い?」
「えっ」
倉持くんは驚いて私の顔を見た。目が合うと、明らかに動揺したように目が泳いでいる。
「な、なんで、いきなり」
「友だちに君付けとかさん付けって変だなって思って」
「……」
倉持くんはそわそわした様子で黙り込んだ。
「もう、友だちでしょ? 私たち」
様子をうかがうようにじっと見つめると、倉持くんは暫く黙り込んだ後、こくり、と一度だけ頷いた。
「それじゃあ、環って呼ぶから、環も梓、って呼んでくれないかな」
倉持くんは肩に掛けた鞄を強く握り締め、数秒沈黙した。その後、遠慮がちに消え入りそうな声で、
「……梓」
と呟いた。
内気でいつもつっけんどんな倉持くん――環が私の名前を呼んでくれたことが嬉しくて、思わず環に抱きついた。
「ありがとう」
「おっ、おい! やめろ」
環はうろたえて体をじたばたと動かした。私が体を離すと、顔中真っ赤になって口許をへの字に曲げている。
「男に抱き付くなんて、おかしいぞ」
「ごめん、嬉しくて。つい。友だちだから良いかなって」
「馬鹿、友だちだからって何でもしていいわけじゃない」
「そんなに怒らなくたっていいでしょ」
「べ、別に怒ってるわけじゃない」
環はすたすたと私の前を足早に歩いて行く。
「ちょっと、環」
私が呼びかけても環は振り返ってくれなかった。そのまま私と距離を置いて歩き、いつもの十字路のところで、
「じゃあな」
と言った。それから、一度だけ、
「梓」
とはっきり言って、振り返りもせずに帰ってしまった。
私は猫に触れられた嬉しさと、下の名前で呼び合えるようになった嬉しさで、幸せいっぱいな気持ちで帰ったのだった。あまりにもにやけすぎて、帰ったらお母さんに驚かれる位だった。
猫と触れ合った帰り道、私はこの一ヶ月ずっと心に思っていたことを伝えようと倉持くんに話しかけた。
「どうしたの」
「環、って呼んでも良い?」
「えっ」
倉持くんは驚いて私の顔を見た。目が合うと、明らかに動揺したように目が泳いでいる。
「な、なんで、いきなり」
「友だちに君付けとかさん付けって変だなって思って」
「……」
倉持くんはそわそわした様子で黙り込んだ。
「もう、友だちでしょ? 私たち」
様子をうかがうようにじっと見つめると、倉持くんは暫く黙り込んだ後、こくり、と一度だけ頷いた。
「それじゃあ、環って呼ぶから、環も梓、って呼んでくれないかな」
倉持くんは肩に掛けた鞄を強く握り締め、数秒沈黙した。その後、遠慮がちに消え入りそうな声で、
「……梓」
と呟いた。
内気でいつもつっけんどんな倉持くん――環が私の名前を呼んでくれたことが嬉しくて、思わず環に抱きついた。
「ありがとう」
「おっ、おい! やめろ」
環はうろたえて体をじたばたと動かした。私が体を離すと、顔中真っ赤になって口許をへの字に曲げている。
「男に抱き付くなんて、おかしいぞ」
「ごめん、嬉しくて。つい。友だちだから良いかなって」
「馬鹿、友だちだからって何でもしていいわけじゃない」
「そんなに怒らなくたっていいでしょ」
「べ、別に怒ってるわけじゃない」
環はすたすたと私の前を足早に歩いて行く。
「ちょっと、環」
私が呼びかけても環は振り返ってくれなかった。そのまま私と距離を置いて歩き、いつもの十字路のところで、
「じゃあな」
と言った。それから、一度だけ、
「梓」
とはっきり言って、振り返りもせずに帰ってしまった。
私は猫に触れられた嬉しさと、下の名前で呼び合えるようになった嬉しさで、幸せいっぱいな気持ちで帰ったのだった。あまりにもにやけすぎて、帰ったらお母さんに驚かれる位だった。