エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
その時俺は、いつも「コンピューターの勉強の方が楽しい」と言った。
周りの恋人達を見ていると、楽しそうに二人で笑ったり、人目も憚らずに体を寄せ合ったり、突然喧嘩して別れたり、とても忙しそうだった。
それが全く羨ましくなかったと言えば嘘になる。でも、当時の俺に取ってはそんなことにエネルギーを使うよりも、沢山の革新的な技術によって数ヶ月、一年単位で変わっていくコンピューターの世界について行く方がよっぽど楽しいと思えた。
……それでも。
もしいつかどこかで「彼女」と会えたなら。その時、彼女が俺のことを忘れていなければ、連絡が取れなくなった理由が俺のせいじゃなければ、誰とも付き合っていなければ。俺は、彼女となら恋愛したい、と思った。あの頃の笑顔を、涙を、誰の前でもなく、自分の前で見せて欲しいと思った。
だから、彼女――森本梓と偶然再会した時、俺は激しく戸惑った。彼女は俺を忘れていなかったし、嫌われてもいなかった。
偶然にも、俺の仕事を手伝ってくれることになって、つきっきりで俺の仕事に入ってくれることになった。入社早々想像以上に仕事が忙しく、この2週間で彼女と殆ど話せないことが毎日もどかしかった。もっと梓とゆっくり話がしたい。十何年、どうやって過ごしてきたのか、そして今、誰かと恋愛をしているのか――。
でも仕事のやり取りばかりが続く中、顔も合わせずに唐突に連絡先を聞くのも気が引けた。聞くにしても、どう聞けばよいのか、まともな恋愛経験もない俺が上手く聞き出す方法が分からなかった。
その時、定時退社日があることを思い出した。定時退社日はよほどの事情がなければ仕事を入れずに早く帰らなければならないことになっている。
……梓を食事に誘ってみようか。断られたら、その時は――また別の方法を考えよう。俺は店の予約だけ入れることにして、当日梓を誘うことに決めた。