エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
それから僕は梓を連れて住んでいるマンションへと案内した。七階に上がり、「倉持」と書かれた表札の前で、リュックの中から鍵を取り出し、家の扉の鍵を開ける。

 誰も居ない薄暗い廊下が広がり、僕は一足先に中に入ると、靴を脱いで廊下へと上がり、電気を付けた。梓も、遠慮がちに後ろをついてきて、「お邪魔します」と言って家へと上がった。

 そのまま廊下を抜け、リビングへと入る。電気を付けると、広々とした部屋にダイニングテーブルと小さなテレビ、ソファだけの光景が広がる。僕は慣れているけど、梓は少し驚いた様子だった。

「飲み物とお菓子、お茶とチョコレートしかないけど、それで良い?」
 僕はリュックをソファに投げて、キッチンへと向かう。
「うん、ありがとう」
「適当に座ってて良いよ。チョコレートは机の上に置いてある」

 冷蔵庫を開けると、がらんとした空間にペットボトルが3本残っていた。その内の二本を取り、梓が待つリビングへと戻る。梓はチョコレートの包みを手のひらにいくつかのせてソファに腰をかけ、辺りを見回していた。

「これ」
 ペットボトルを渡すと、梓は「ありがとう」と言って受け取り、代わりにチョコレートの包みを僕に分けてくれた。

「見たことのないチョコレートばっかりだね。外国のチョコレート?」
「うん。お父さんが取引先の人からもらってくる。コンピューターを弄ってると疲れるし、甘いもの欲しくなるから、チョコレート好きなんだ」

 そう言うと、梓は押し黙って、チョコレートの包み紙に目を落とした。
「ねえ、環ってお父さんの帰りが遅いって言ってたよね」
「うん」
「ご飯ってどうしてるの?」

 キッチンの端にまとまったゴミ袋を指さした。
「お金だけ渡されて、大体はコンビニでご飯を済ませてる」
「……寂しくないの?」
 梓は口角を下げ、悲しそうな表情で僕を見た。僕は表情を見られたくなくて、僕は俯いてずれた眼鏡を直した。

「別に。もう慣れた」
「……、そっか」
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