エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「えっ、なんで伏せちゃうの?」
「別に」
「もしかして、お母さん?」

 そう言われて、僕は戸惑った。お母さんのことを梓に話すべきかどうか。家に上げれば家族のことを聞かれるのは分かっていた。それでも家に上げたのは、きっと心のどこかで僕の気持ちを分かって欲しかったから――。

 僕は、小さく深呼吸して伏せた写真立てを元に戻した。

「そう。小二の春に死んだんだ」
 梓の表情は、みるみる悲しげに曇っていった。
「そう、だったんだ」
 僕は梓に背を向け、コンピューターの前に置いてある背の高い椅子に腰をかけた。

「がんっていう病気で死んだ。それまでもずっと病気がちで病院と家を行ったり来たりしてたんだけど、入学式にも授業参観にも運動会にも、イベントには必ず来てくれた」
「うん」
「お母さんが死んだ時、上手く言えないけど、実感がわかなかった。人が死ぬってどういうことか、よく分からなかった」
「……」

「でも、周りのクラスメイトはみんな授業参観にも運動会にもお母さんが来てくれてるのに、僕のうちは来なくなった。お父さんは仕事が不規則で忙しいし、親戚も居なかった。その時、お母さんはもうこの世に居なくて、僕は取り残されたんだって実感したんだ」
 話している内にその時の感情がこみ上げてきて、僕の震え混じりの声になっていくのが自分でも分かった。

「そしたら、急に心の中にぽっかり穴が空いた気分になって、自分は普通とは違うんだって感じるようになった。クラスメイトが休日に家族でどこへ行ったとか、そういう話を聞くのも苦痛になって、それから僕は誰かと話すのを避けるようになった」
 僕は顔だけ梓の方へ覗かせて、彼女を見た。

「……僕に友だちがいない理由、分かった?」
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