エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
そう言うと、何故か彼女は泣いていた。

「梓、なんで泣いてるの」
「えっ」
「涙、出てるけど」
 まさか彼女が泣くと思わなくて、驚いた。

「ご、ごめん。話を聞いてたら、辛くなって」
 彼女は鼻をすすり、人差し指で涙を拭った。

「お母さんが居なくなった、環の気持ちを考えたら辛くなっちゃった。私も環と同じ立場だったら、他の人と話すの辛くなると思う。みんなにとっては当たり前でも、自分は違うんだって、孤独を感じると思う」

 自分の立場に立って考えてくれる梓の優しさが嬉しくて、胸が締め付けられた。

「今まで友だちがいないとか茶化してごめん」
 僕は鼻声の彼女の顔を見ないようにしてティッシュ箱を差し出した。

「別に良いよ。むしろ、泣くなんて思わなかった。ほら、拭きなよ」
 梓はティッシュ箱を受け取り、涙を拭いた。僕は座っている椅子をくるりと回転させ、立ったままの梓と向き合った。

「……梓が友だちになってくれて良かった」
 梓は照れたように顔を赤くして、顔を逸らした。

「環が作ろうと思えば、今からだって友だち出来るよ」
 でも僕は首を振った。僕のことを分かってくれる人は梓一人で十分だと思った。

「今更俺が皆に話しかけたら気持ち悪いし、コンピューターをいじるの嫌いじゃないし、僕の友だちは梓だけで良い。これからも梓の負担にならない程度に、コムギの餌、時々一緒にあげてくれればそれで良いから」

 そう言うと、梓は何かを考え込むように視線を下に落とした。それから数秒沈黙して、
「ねえ、環」
 と僕を呼んだ。
「何?」

「時々夜ご飯食べに来ない? 家族に環の事、友だちだって紹介したいんだ。それに、コムギの餌だけじゃなくて、もっと他の所にも遊びに行かない?」
 思いがけない誘いに戸惑い、首の後ろを掻いた。

「梓の家族に迷惑がかかるし、人が多いところは好きじゃない」
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