エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
総合職に比べると、営業事務の子は結婚願望が強い子が多く、結婚すると辞めてしまう子が多い。特にIT系の営業事務は他の事務に比べて専門的な知識も必要になるため、結婚が決まると寿退社してしまう傾向にあった。
そのためか入れ替わりも早く、若い子が多い。見た目もかなり気を遣っていて、全体的に「女子力高め」だ。
……まあ私を除いて、なんだけれど。
「あっ、出てきた!」
桃子ちゃんがパッと表情を輝かせ、数メートル先の応接間から出てきた噂の人物を見た。私もつられてその人の姿を目で追うと、部長に連れられ、部長席の方へと歩いて行くのが分かる。
180cm近くある部長よりも背が高く、さらさらとした黒髪が耳の下で綺麗に切りそろえられ、フチなしの眼鏡をかけている。目許は涼しげで、優しい、というよりはクールな雰囲気だ。服装は紺色のスーツに白いYシャツ、青いネクタイ。
顔つきも相まって全体的に隙のない印象を受けたけれど、桃子ちゃんの言うとおり、確かに格好良いとは思う。
「……あれ?」
私はその人を見ているうちに、不思議な既視感にとらわれた。初めて見るはずなのに、どこかで見たような気がした。
「先輩、どうかしました?」
桃子ちゃんが訝しげに顔をしかめる私を見て首をかしげた。
「いや、あの人……。」
必死に思い出そうとしてみたけれど、どうも記憶がはっきりしない。
「もしかして、知り合いですか?」
期待を込めた眼差しで桃子ちゃんが私を見る。私は中高大ずっと女子校だったし、社会人になってからも、あんな男の人と接した覚えなんて、やっぱり無い。
「ううん、なんでもない」
気のせいだと思うことにして、私は一旦、男の人から視線を外し、パソコンの電源を入れた。