エリート社員の一途な幼なじみに告白されました

 オフィスに戻る頃には六時二十分、私はロッカーからコートを取り出し、鞄を持って一人オフィスを出た。環とは今朝に顔を合わせただけで、今日はそれ以来会っていない。

 外は十一月の冷たい風が吹いていて、コートの隙間から風が入ってくる。最寄りの駅を出て、地図を開き直すと、お店はオフィス街の中にひっそりと店を構える隠れ処的な場所にあるようだった。

 少しだけ歩き、目印のコンビニを曲がると、薄暗い道沿いに、「カンパネラ食堂」と書かれた暖色の看板がぶら下がっているのが見える。そしてその店の前に――黒いコートを着た環が立っていた。スマートフォンを操作しているらしく、俯いて画面を見ている。

「環」
 私が声をかけると、環はスマートフォンから顔を上げ、端末をコートのポケットにしまった。

「来てくれたんだな」
 心なしか環の口許が緩んでいる気がする。

「うん」
 あれだけ話したいと思っていたのに、これから二人きりで食事をするのかと思うと、ブランクがありすぎてやっぱり緊張してしまう。短く返事をすると、肩に掛けたショルダーバッグの紐をぎゅっと握り直した。環は腕時計に目を落とし、
「ちょうど良い時間だ。ここは寒いから中へ入ろう」
 と言って店の扉を指さした。

 そのまま環に先導されるように店の扉をくぐり、中へと入る。程よく暖房が効いた室内は、壁全体がレンガ造りになっていた。入ってすぐにお酒が並べられたカウンターがあり、その奥は厨房になっているようだ。席数はそれ程多くなく、こじんまりとしたアットホームなお店だった。
 
 店員に案内され、私と環は店の奥の二人席に腰を下ろす。それぞれコートを脱ぎ、店員に渡すと、丁寧に壁に掛けてくれた。机の上には小さな品書きと、飲み物のメニューが置かれている。

「料理はコースで注文してあるから、飲み物だけ好きなものを頼んでくれ」
「えっ、そこまでしてくれてたの?」
「そっちの方が楽だろ」
 わざわざ私のために予約してくれたのかと思うと嬉しさがこみ上げる。
「ありがとう」
 私の言葉に環は軽く咳払いをして、メニューを広げた。

「飲み物、どうするんだ」
「うーん、何かワインでも飲もうかな」
「適当に頼んで良いか?」
「うん」
 環は傍で待機していた店員に赤ワインのボトルを注文した。注文を受けた店員がいなくなると、二人の間に沈黙が流れる。
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