エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「いきなり新しいお母さんが現れて、受け入れられたの?」
 案の定、私の質問に環は表情を曇らせ、首を左右に振った。

「いや。俺は嫌だった。話したくもなかった。母さんじゃない新しい人を選んだ父さんも嫌いだったし、言葉もよく分からなかったし。でも、俺はその時、学校で酷いいじめにあってたんだ。沓掛に居たときも友だちなんて居なかったけど、アメリカのいじめはもっと陰湿で、俺は不登校になってた」

 突然アメリカに連れて行かれた上に、言葉も分からない中で色々な差別を受けた環の事を思うと、聞くだけで胸が締め付けられる。メールで連絡が取れたらどんなに良かっただろう。

「父さんが紹介したいって言って連れてきたその女の人は、もう俺の事情を知ってたんだ。そしたら、開口一番に見た目が良くないって言ったらしい。髪を切って眼鏡を変えなさい、それから英語を勉強して人一倍頑張りなさいって」
 環はワインを一口飲んで、ため息を吐いた。

「それで、その人に無理矢理髪を切りに連れて行かれて、眼鏡も新調させられて、おまけに家庭教師みたいに家に転がり込んできた。いつの間にか父さんが居ない間の世話係みたいになった」
「さすがアメリカ人、積極的だね」

 へえ、と感心していると、前菜が運ばれてきて、目の前に並べられた。トマトとバジルが乗った一口サイズのパンが並べられている。一口つまむと、美味しくて頬が緩んだ。

「その人の写真はあるの?」
 環はワインのグラスを置いてスマートフォンを取り出し、何やら操作して私に画面を見せてくれた。

「わあ、綺麗な人だね」
「つい数ヶ月前の写真だな」
 ブロンドの髪を腰の辺りまで伸ばし、顔立ちが整った聡明そうな人だった。見た目は50代前半くらいだろうか。年相応の皺はあるけれど、美人の面影を十分に残していた。

「結果的に、母さんのおかげで俺はいじめられなくなったし、コンピューターの勉強も出来るようになったから、今では一応、感謝してる」
「今は? 二人ともアメリカにいるの?」
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