エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「ああ。俺もずっとあっちで暮らしてたけど、大学でコンピューター関係の勉強をした後、住忠ソリューションズに就職したんだ」
「環、コンピューター関係の仕事がしたいって言ってたもんね」
 あの頃、環が毎日のようにコンピューター関係の本を読んでいたことを思い出す。でも、なんであっちで就職しなかったんだろう。

「アメリカの会社に就職するって選択肢はなかったの?」
 怪訝に思った私が尋ねると、環の眼差しは真剣になった。

「アメリカはIT先進国で色々進んでるけど、日本はまだまだITの分野で発展できる余地がある。俺は、アメリカの良いソフトウェアを日本に広めたかったんだ。ちょうど住忠商事がIT系の商材に注力してるって聞いて、まずは現場で働ける子会社に就職したんだ」

 その言葉は真っ直ぐで、嘘を吐いているように見えない。本当に心からそう思っているんだ、と思った。真面目な環と比べると自分が恥ずかしく思えてきて、人差し指で頬を掻いた。

「……環はちゃんと目標があって、凄いね。私なんて全然だな。ただ女子校出て、英語を少しかじったからっていう理由だけで営業事務をやってるし、目標も何もなくて」

 すると環は真剣な眼差しのまま眼鏡のブリッジを押して、
「いや、梓の事務能力は高いと思う。ほとんど直接会っても居ないのに、ちゃんと見積書も請求書も納品書もミスなくやってくれるし、俺の手が届かない部分までフォローしてくれてる」
 と言った。
 突然褒められるとそわそわしてしまって、私はヒールの中でつま先をぎゅうと丸めた。

「やだな。お世辞とか恥ずかしいよ。ほら、前菜でも食べたら」
 
 照れくささを隠すために、前菜に手を付けない環に食べるよう促すと、私はワインの傍に置かれた水を一口飲んで喉を潤した。

「俺はお世辞なんて言わない」
 環の射貫くような眼差しに、たちまち体中が火照って行くのを感じる。ワ、ワインを飲んだせいかな。

「梓のおかげで、俺は入社したばかりだけど仕事に専念出来てる」

 そして、こう言葉を続けた。
「梓がパートナーになってくれて良かった」

 会社ではクールな環が、ほんの一瞬、柔らかな笑みを浮かべた。
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