エリート社員の一途な幼なじみに告白されました

 ああ、ずるい。二週間、本当に心も体もくたくたで、仕事について行くのに精一杯だったのに。そんな優しい顔でそんな風に言われて嬉しくないはずがない。

「す、素直じゃない環がそんなこと言うなんて酔ってるでしょ」
 それでも私の口から出てくるのは可愛げの無い言葉で、自分の方がよっぽど素直じゃないと思う。

「少なくとも俺はお前よりは酒を飲める方だと思うけどな」
 環はそう言って、やっと前菜に手を付けて食事を始めた。ライトグレーのスリーピースを皺一つなく着こなし、爽やかな水色のネクタイつけた環は高級感も清潔感があって、食べ方もそつが無い。隣に綺麗な人が居たら、きっと様になるだろう。

「環は女の人と二人で食事したりするの?」
 何気なく問いかけると、環は、
「いや、ないな」
と淡々とした口調で返事をして、口直しにワインを口に含んだ。

「仕事が忙しくてそんな暇なんてない」
「それじゃあ、仕事が忙しくなかったら食事に行ったりする?」
「さあな、今までそんな経験が無いから想像もつかないな」
「そうなの? 今の環なら女の人にモテそうなのに」
 環は静かに首を振り、私の方をちらりと見遣った。

「……。お前こそ、どうなんだ」
 私は環の問いかけに首を振り、肩をすくめた。

「男の人と二人で食事なんてだいぶ久しぶり」
 私の一言に、環は僅かに目を見開いた。

「へえ、意外だな。もっと社交的だと思ってた。今はともかくとして、営業事務の仕事はプライベートで男と食事する暇もないくらい忙しいのか?」

 私は前菜の最後の一口を食べ、グラスの中のワインを少し多めに飲むと、自嘲気味に笑って眉を下げた。

「そんなことはないけど」
 環は怪訝そうな眼差しで私を見た。
「じゃあ、なんだ、何か事情でもあるのか」

 店員が空になった皿を運んでいき、手際よく次の料理を運んでくる。パスタの美味しそうな食べ物の匂いが鼻をかすめるけれど、私は昔の記憶を思い出して食べる気になれなかった。

 私が何も言わずに黙っていると、環はふっと小さく息を漏らして、
「あんまり聞かれたくない、って顔だな」
 と言った。
「嫌なら無理して答えなくても良い」
 
 環はそれ以上何も言わずに、一足先に運ばれてきた料理に手を付けた。私はぼんやりと昔のことを思い出しながら、フォークを手に持つ。
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