エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
#13 素直になれない ―環side―

 火曜日、俺がいつも通り朝早く出社すると、「倉持さん」と女性の声で話しかけられた。顔を上げると、そこには会社で何度か見かけた営業事務の女性が立っていた。

「今、お時間、宜しいでしょうか」
「ええ、構いませんが」
 そう言うと、彼女は嬉しそうにはにかんでお辞儀をした。

「私、結城桃子と言います。今回、佐々木さんと一緒に倉持さんの歓迎会と忘年会の幹事をさせて頂くことになりました。よろしくお願いします」

 彼女からはふんわりと甘い香水の匂いがした。服装もタイトなワンピースを着て、見た目も声も「異性」に見られることを明らかに意識している印象を受ける。
 正直、こういうタイプの女性は苦手だ。

「そうでしたか、私のためにお時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
 淡々と接すると、彼女は慌てて横に手を振った。

「いえいえ、むしろ倉持さんとお話しする機会が出来て嬉しいです。ずっとお話してみたかったんですが、なかなか会社にいらっしゃらなくて。早く出社されて居るって知ったので、今日は私も早く来ちゃいました」

 ストレートな表現と、柔らかい笑みを浮かべる彼女に、心を動かされる男もいるのかもしれない。でも、生憎俺はそういうタイプじゃない。

「それなら、なおさら申し訳ないです。朝の時間は貴重ですから」
 眼鏡のブリッジを押し上げ、頭を下げると、彼女は笑みを崩さずに首を左右に振った。

「そんなことないです。倉持さんにも皆さんにも楽しんでもらえるようにするのが幹事の努めですから」
「ありがとうございます」
「これから会場を決めようと思うのですが、何か苦手な食材だったり、逆にお好きなものはありますか?」

 彼女は手に持っていたメモ帳でメモを取ろうとする仕草を取った。
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