エリート社員の一途な幼なじみに告白されました

 環が始業時間よりだいぶ早く出社しているのを知ると、自分もそれに合わせて出社して、何回か話しかけているのを、同じように早く出社したときに見かけたことがあるし、環がたまに早く帰ってきて会社で仕事をしているときに話しかけに行ったことを見かけたこともある。

 一方の私はというと――あの日から今日まで、環と仕事以外の会話をしていなかった。直行直帰の日も何日かあったし、ほとんど毎日、会社で顔を合わせることがなかった。

 会社に居る日があっても、電話や打ち合わせやらで忙しそうにしていて、気軽に話しかけられるような雰囲気じゃなかった。今日だって居ない。

 だから仕事の指示はいつもメールで書かれていた。指示は的確で余計な質問はいらなかったし、私も細心の注意を払って書類や取引先との電話対応をしていた。

 どうしても急ぎで確認しなければならない用事がある時は、大抵は外出中だから電話をかけた。それでも、話すときは薄い一枚の透明な板を挟んでいる感じがした。

 二週間をそうやって過ごしているうちに、私はあの時の環の言葉が本当だったのか分からなくなり始めていた。

 環は単に酔っていただけで、私に告白したことを心のどこかで後悔しているのではないか。それで淡々と接しているのではないかとさえ思うようになった。

 でも自分からそれを確かめる勇気が無かった。もし本当に酔っ払った時の一時的な言葉だったとしても、それを知るのが傷つくのが怖くて今日まで来てしまった。一瞬でもドキドキして、ときめいてしまった自分が恥ずかしくなった。

 桃子ちゃんの方が私よりずっと女の子らしいし、積極的だし、可愛い。だから、もしも桃子ちゃんが環と仲良くなって、そういう関係になったとしても、仕方が無いと思っていた。

 むしろそれであの頃のような幼なじみのような気楽さに戻れるのなら、応援しようと思った。

「幹事、頑張ってね。影ながら応援してるから」

 笑みを繕ってそう言うと、私はパソコンに向き合い、環から指示された今日の仕事に取りかかった。
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