エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「……今日からITソリューション部で働かせて頂くことになりました、倉持環です。よろしくお願いいたします」

「えええっ!?」

 名前を聞いた私が、驚いて反射的に声を上げると、その声に反応した周りの人が一斉に私の方を見た。部長までが何事かと私の方を見て、

「どうかしたか、森本さん」
 と言ったので、恥ずかしさでみるみる顔が赤くなっていく。

 倉持さんの視線も感じ、私が慌てて、
「も、申し訳ありません。なんでもありません」
 と頭を下げると、再び注目は倉持さんの方に集まった。倉持さんは部長に促されて自己紹介を始めたけれど、私の頭の中には全く内容が入ってこない。

 倉持環? 私が感じた既視感は、既視感じゃなかったんだ。でもあの頃と雰囲気があまりに変わりすぎたから、一目見ただけでは分からなかった。

 思い出されるのは、十数年前の倉持さん――もとい、環だった。あの頃の環は、黒縁の分厚い眼鏡をかけて、目の下まで前髪を伸ばしていた。背も私と同じ位だった。
 
 そんな環が、あんな風に変わってしまうなんて。まさか、整形? それとも、同姓同名の別人?

「――という訳で、今日から皆の仲間として働くことになるから、温かく倉持くんを迎えてくれ」
 昔の環のことを思い出している内に、いつの間にか環の自己紹介は終わり、部長の声で挨拶が締めくくられた。パチパチと拍手が起こり、環がもう一度頭を下げる。それからは簡単な今週の予定と、営業目標が告げられ、朝礼は10分ほどで終了した。
 
 月曜の朝は特に忙しく、朝礼が終わると慌ただしく仕事が始まる。営業社員は朝一のアポイントへ出かけ、営業事務も取引先からの電話応対や見積書の作成などの仕事に追われる。年末にかけて仕事量は確実に増えていた。

「倉持さんかあ。格好良いなあ」

 なんて朝礼後にうっとりしていた桃子ちゃんも、電話がかかってくると、電話応対ですぐにいっぱいいっぱいになっていたし、他の営業事務の子たちも電話応対や営業社員とのやり取りで忙しそうだ。
< 6 / 85 >

この作品をシェア

pagetop