エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「部長、倉持さん、いかがなさいますか?」
 桃子ちゃんがそそくさと飲み物のメニューを二人に差し出した。

「とりあえずビールで良いんじゃないか」
「ええ、私もビールで構いません」
「それじゃあ、とりあえず一杯目はビールにしましょうか」
 桃子ちゃんがちらりとこちらを見たので、私も「うん」と言って飲み物はビールに決まった。

 テーブルに飲み物が運ばれてくる間、私も環も目を合わさなかった。ただ笑みを繕いながら、場の空気を壊さないように努めた。

 それから各テーブルに飲み物が運ばれ、私たちのテーブルも運ばれてきた瓶ビールをつぎ合うと、佐々木さんが再び立ち上がった。

「それでは、飲み物が揃ったようなので、部長から再び乾杯の挨拶を頂きます」
 部長がビールを持って立ち上がり、大きく良く通る声で「それでは皆さん、乾杯!」の音頭を取った。

「乾杯!」

 ITソリューション部の全員が同じようにグラスを持ち上げ、グラス同士がぶつかる音が響く。私たちもそれぞれグラス同士を合わせた。環とも、他の人と「同じように」グラスを合わせる。

 乾杯が終わると本格的に会場は賑やかな声で包まれ始めた。各テーブルから楽しそうに談笑する声が聞こえ、食事も手際よく運ばれてきて、各々好きなタイミングで食事を取り始めた。

「しかし、倉持くんと森本さんが同じテーブルとはまた凄い偶然だね。普段から仕事している仲だから、他の社員よりも森本さんは倉持くんのことを知っているんじゃないか?」
「えっ」
「森本さんから見た倉持くんはどんな印象なんだい?」

 思いがけず放たれた城崎部長の言葉に、動揺して表情が引きつりそうになる。勿論、この中では誰よりも環を知っている。でもそれは昔の環で、今の環とはあの一件以来、仕事の話しかしていない。

「え、ええと……とても、仕事が出来る方だな、と思います。沢山の仕事を抱えていらっしゃるのに、仕事の指示はとても的確ですし、聞けばすぐに答えてくださいますし……スマートな方というか、何というか」

 まとまりのない言葉になりかけて、最後の方はごにょごにょとした口調で誤魔化してしまった。

「スマートか。確かに倉持くんはスマートだ」
 城崎部長が納得したようにと頷き、桃子ちゃんや佐々木さんも合わせて頷いた。

「確かに、倉持さんはスマートですよね」

 ちらりと環を見ると、環は謙遜するように小さく首を左右に振り、「いえ」と言ってビールを飲んだ。
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