エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「俺は一応主役だから、二次会も参加しなきゃならないが、お前は帰れ。でも、具合が悪くなったら、ここに連絡しろ。何が何でも抜け出すから」

 そう言って、環は私の手の中に何かの紙を握らせた。

「帰って休んで……気が向いたら、明後日の12時に、ここに来てくれ」

 環の体が私から離れる。環は少し寂しそうな顔をしていて、その表情がまた私の胸を締め付けた。

 環が踵を返し、姿が会場へと消えると、私は震える手で握らされた紙を開く。

 そこには、電話番号ととある場所の名前が書かれていて、場所の名前には見覚えがあった。

「……環」

 急に力が抜けてへたり込みそうになるのをなんとか堪え、体を壁にもたれさせながらお手洗いへと向かう。用を足して鏡の前に立つと、私の顔は耳まで真っ赤になっていた。

 あれだけ恋愛を避けてきたはずなのに、環から二度目も告白されて、心の奥底に蓋をしていた気持ちが溢れそうになってくる。

 ――抱き締めて欲しい。優しく頭を撫でて欲しい。好きだと言って欲しい。こんな私でも、心から愛されたい。満たされたい。

 小学生のころは、まさか環とこんな風になるなんて思わなかった。

 でも、大人になった環に、真剣な眼差しに見つめられて、抱き締められて、好きだと言われて、ずっと待ってると言われたら、もう「幼なじみ」なんていう関係じゃ片付けられなくなってしまう。

 ……もう一度、恋愛しても良いのだろうか。一歩踏み出しても、良いのだろうか。

 まだふらつく足でテーブルへ戻ると、ちょうど閉会の挨拶が始まった。部長と環からそれぞれ行われ、幹事の桃子ちゃんと佐々木さんからも挨拶があった。最後は一本締めで終わり、その後は二次会組と解散組に分かれて店を出た。

 私は桃子ちゃんに二次会へ誘われたけれど、お酒を飲み過ぎて気持ち悪かったし、環が言うとおりおとなしく家に帰ることにして、誘いを断った。

 環は案の定、部長を始め、営業事務の子や営業社員の子達に二次会へと連れて行かれてしまった。

 ぼんやりする頭でなんとか電車を乗り継いで家に帰ると、私は環の電話番号当てに、「無事に帰れました」とだけ、ショートメールを打った。

 その後はベッドに倒れ込むようにして眠りに落ちた。
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