エリート社員の一途な幼なじみに告白されました

 私は、今日やらなければならない仕事のファイルを開きながら、環のことを考えた。本当は話しかけて本人か確かめたい。過ごした期間は長くなかったけれど、私の大切な友だちだった。ある日を境に連絡が取れなくなってしまって、ずっとその後の消息が気になっていたのだ。

 でも、あんなに雰囲気が変わってしまった環が、本当に私が知っている環本人かどうかも分からない。本当に私が知っている環だったら凄く嬉しいのに。

 ――うう、駄目だ。午前中に頼まれてる急ぎの仕事があるし、とりあえず環のことは忘れよう。仕事に集中しよう。

そう思って気合いを入れるために頬を一度パン、と叩いた時だった。
「森本さん」
 部長が私を呼ぶ声が聞こえた。

「はいっ」
 声がする方を見ると、部長席の前にまだ城崎部長と環が立っている。デスクから立ち上がり、足早に城崎部長の席へと向かった。

「部長、いかがなさいましたか」
「急で悪いんだが、倉持くんの営業事務を、森本さんに任せたい」
「……えっ」
 
 部長は環の肩をとん、と叩いた。その時、私は自然と環と目が合った。環は微笑みもせず、私の瞳の奥とじっと覗くように私を見下ろしている。その眼差しに、何だか胸が締め付けられて、思わず目を逸らしてしまった。

  ――この人、本当に環なんだろうか。もしそうだとしても、環は私のことを、覚えているんだろうか。

「朝礼の時にも紹介したと思うが、倉持くんはこの年齢で住忠ソリューションズから住忠商事に転籍してきた、とても能力のある社員だ。難しい仕事を任せることも多いし、そのサポートをするためには相応の経験を積んだ営業事務の人にお願いしたい」
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