エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
梅雨が明け、夏休みが数日後に迫ったある日、僕たちはいつものようにコムギに餌をあげた後、公園のベンチに座ってアイスを食べていた。
「ねえ、環」
梓が浮かない顔で僕の顔をのぞき込んだ。
「今日、会った時からずっと暗い顔をしてるけど、何かあった?」
僕はずれた眼鏡を直して、アイスの棒の最後の一口を食べた。
もう言わなければ、本当に時間が無い。言わなければと思うほど緊張して脈が速まり、喉が渇いてくる。
言葉が震えそうになる声を堪えて、僕は、
「僕、夏休みに入ったらすぐに海外へ行くんだ」
と言葉を振り絞ると、梓は一瞬困惑した表情を見せた後、
「……え?」
とだけ言った。僕の言葉が理解出来なくて混乱しているみたいだった。
「それって、海外旅行?」
僕は小さく首を左右に振る。
「違う、引っ越すんだ」
梓は僕の言葉を聞いて固まってしまい、それきり、暫く黙り込んでしまった。明らかに動揺して、瞳が揺れている。梓の食べかけのアイスがぽたりと梓の膝に落ちた。
「海外? 引っ越し? どういうことかよく分からないよ」
やっと絞り出した言葉は震えていた。
「お父さんの転勤で、アメリカに行く」
そう言った瞬間、梓の顔は悲しそうに歪んだ。梓の悲しそうな顔を見たくなくて、僕は胸の奥がたちまち苦しくなって、俯く。
「いつ決まったの?」
「……梓と初めて会った時から、もう決まってた」
「そんな」
梓の声色に落胆が滲んでいる。
「今まで言えなくて、ごめん」
唇を噛み締めて拳を握り締めると、
「……どうして、言ってくれなかったの?」
と涙声で問いかけられた。
今度は僕が何も言えなくなる番だった。本当はもっと早く言うべきことは分かっていた。もうすぐ海外へ行くからと突き放しても良かった。
でも、梓と友だちになって、梓の事を知れば知れば知るほど言えなくなっていった。