エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
#18 思い出の場所
環の歓迎会と忘年会があった翌々日の日曜日、私は環から指定された場所へと向かうために電車に乗った。
外は曇っていて寒く、マフラーと手袋、タイツ無しでは居られないほどに冷えていた。
電車を乗り継いで待ち合わせ場所に向かうと、既に環が待っていた。ネイビーのコートにグレーのハイネックのセーター、黒いパンツというスタイルで、電柱に寄りかかって目を閉じている。
「環」
私が声をかけると、環は顔を上げ、微かに目尻を緩めた。
「……梓」
声は会社の環とはまるで違う、優しくて温かみのある声だった。そのギャップに胸の奥がとくん、と跳ねる。
「場所、覚えててくれたんだな」
「当たり前でしょ。ずっと二人で通ってた場所だもん」
私たちが待ち合わせていた場所は、かつて私と環がコムギに餌をあげていた、あの路地だった。
二人の間に、少しの沈黙が流れる。すると環が私の方へ腕を伸ばし、
「来てくれて、ありがとう」
と私を腕の中に抱き寄せて言った。外気で冷えた体が、たちまち熱くなっていく。
「ちょ、ちょっと環」
動揺して声が震えると、環は、
「寒かったから、暖を取りたくなった」
と言って背中をぽん、と叩いた。
「もしかして、まだ酔ってる?」
声も態度も、先週と全然違う。そんな環に戸惑って思わずそんな言葉が口を吐いて出てしまった。
環は首を左右に振った。
「酔ってない」