エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「この感じ……懐かしいな。思ってたより何も変わって無くて驚いた。もっと知らない家が建ってたり、道がなくなくなってたりしてたかと思ったけど」

「そうだね。懐かしいよ。私たちだけ年を取って、この辺りはあの頃と何も変わってない」

 環は野良猫から離れ、コムギがよくうろうろしていた電柱に触れた。

「……コムギのこともずっと世話したかったけど、残念だった」

 環は寂しそうに目を細めた。私は鞄の中からコムギの写真を何枚か取り出し、環に差し出した。

「環が気にしてると思ってコムギの写真、持ってきたんだ」
「本当か? ありがとう」

 環は嬉しそうに口許をゆるめ、写真を手に取った。懐かしそうな眼差しを向けながら、ゆっくりと写真をめくっていく。

「コムギ、こんなに大きくなったのか」
「うん。家猫になってからは食欲が旺盛になっちゃって、太っちゃった」

 頬を掻くと、環はふっと、小さく笑った。

「それだけ、あいつは梓の家で安心して暮らしたってことだな」

 時間をかけて全部の写真を見終わった環は、私に写真を返すと、ゆっくりと昔二人で歩いて帰った道に向かって歩き出した。私も環の横について一緒に歩いて行く。

 不意に冷たい風が吹きつけると、環は突然私の手を取って握った。

「環」
 
 抱き締められるのは勿論、男の人に手を握られるのも久しぶり過ぎてドギマギする。私が環の名を呼んでも、環は前を向いたまま、私の手を引いて歩き続けた。

 あの頃は手なんて繋がなくて、ただ肩を並べて歩いただけなのに。

 それに、どちらかと言えば私が環を引っ張っていた気がするけど、今は私がどんどん環に引っ張られている。抱き締められて、頭を撫でられて、手を繋いでいる。

 ――まるでもう、恋人みたいだ。

「昨日、梓の夢を見たんだ」
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