エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
暫く黙っていた環は眼鏡のブリッジを押し上げて、やっと私の方を見た。
「どんな夢?」
「アメリカに行くって言った日の夢」
――アメリカに行くと言った日のことは私も良く覚えている。
突然の告白に頭の中が真っ白になって、胸にぽっかり穴が空いたような気分になった。
環と離ればなれになるのは寂しかったし、何でも言い合える仲になっていると思ったのに、ずっと隠し事をされていたのは辛かった。
「あの日は、本当にショックだったな。あんまり突然アメリカに行くって言われて。最後の方なんて話すと色々溢れてきそうで、何も言えなかったもん」
環は私の手を握る力を少しだけ強めて、眉を下げて笑った。
「そうだな。……今思えば、昔の俺も梓に大事なことを直前まで言えなかったな」
不意に頭の上に冷たいものが当たった。びっくりして上を見ると、曇天の空からうっすらと白い粉のようなものがぱらぱらと落ちてくる。
「もしかして、雪?」
「ああ。もう十二月だし、これだけ寒いと、初雪でもおかしくない」
地面に落ちるとすぐに溶けてしまうほどの粉雪がうっすらと降り注ぐ中、私たちは手を繋いだままいつも別れた場所までやってきた。
「梓の家はまだあるのか?」
「ううん、私が社会人になってからおじいちゃんが倒れちゃって。家は売って、お父さんもお母さんも今は静岡のおじいちゃんの家で暮らしてる。お父さんも定年退職してるから」
「そうか……お世話になったからせめて挨拶でも、と思ったんだが」
「ごめんね」
「いや、良いんだ」
環は私の手を引いて、環の家があったマンションの方へと歩き出す。数分も経たないうちに環が住んでいたマンションに着くと、マンションは当時の面影を残したまままだそこにあった。
あの時より少し古くなっている感じはするけれど、確かに環が住んでいたマンションだ。