エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
……しまった。環に驚いて朝礼の後半をほぼ丸々聞き逃していた。桃子ちゃんは最初環のことを中途社員だって言ってたけれど、部長の話を聞く限り、単なる中途社員じゃなくて、栄転してきたということになる。子会社から親会社に転籍するケースはかなり珍しいから、よっぽど子会社で優秀な成績を収めたに違いない。

「それで、私が倉持さんのサポートをさせていただくということでしょうか」
「ああ、そうだよ」
 部長から直接指名されることは光栄なことなのに、正直、素直に喜べなかった。既に私自身も、自分の仕事だけじゃなくて、他の営業事務の子の仕事をサポートしたりしていて、仕事量は精一杯だ。

 それ以上に、営業と営業事務はやり取りが多いので信頼関係が大切になってくる。あの頃の環だったらまだしも、「今目の前にいる倉持環さん」と上手くやっていけるか自信が持てない。

 そんな私の不安を察したかのように、部長が優しい口調で、
「今森本さんがやっている仕事は、他の営業事務の子に引き継いでもらうつもりだ。それに倉持くんも的確に君に指示を出してくれるはずだ。だから安心して、倉持くんの仕事に専念して欲しい」
 と言った。会社である以上、上司の頼みにノー、なんて言うことは出来ないし、正当に断る理由もない。私は、上着の裾をぎゅっと掴んで、「はい」と返事をした。

「ありがとう。仕事の引き継ぎの件は、私から営業や事務の子たちに話をしておくから、まずは倉持くんの今後の仕事の打ち合わせについて同席してもらえるかな」
「……分かりました」
「倉持くんも、そういうことで構わないね」
「はい、構いません」
「それじゃあ、5分後に応接室に集まって話をしよう。よろしく頼むよ」

 そこで会話は終了し、私は一旦デスクへ戻った。でも今までやっていた仕事から切り替えて、いきなり環とタッグを組んで仕事をしてくれなんて言われても、すぐには気持ちの整理がつかない。

 打ち合わせまでに一旦気持ちを切り替えよう。用も無いのにトイレに立とうと廊下へ出る。うう、気が重いなあ……。
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