仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「最低限の義務ってなに?……それ以上の要求って?」

一希は依然として不快感を隠さないまま言った。

「君を妻として扶養する。十分な生活環境を与えるし、子供も作る、契約だからな。ただし、家族愛やそれ以上の情を求められても迷惑でしかないし、応えるつもりもない」

「……! そ、そんなことって……家族愛も持てない相手と、どうして子供なんて作れるの?」

「そういう約束で結婚した。それは君だって同じだろう? 嫌なら断れば良かった。だがそうしなかったのだから義務は果たすべきだ」

「そ、それは……」

確かに、実家への支援と引き換えに結婚を選んだのは美琴自身だ。

(でも、相手が一希だなんて知らなかったから)

「……一希は知っていたの? 相手が私だって……それでも結婚を受けたの?」

一希はなぜそんな質問をするんだ?とでも言いたげに首を傾げ、それからあっさりと答えた。

「当然だ。だがそれがなんだって言うんだ? 結婚相手が偶然昔の知り合いってだけで、条件が変わる訳でもない」

「……そうなんだ」

(一希は私の事なんて、本当に何とも思っていないんだ)

きっと、苦手な虫を見たときのように、視界に入ると憂鬱になるような存在なのだろう。

(仲が良かったときだって有ったのに……子供のころの思い出はもう残っていないの?)

優しかった頃の一希の姿が思い浮かんで、涙が溢れそうになる。
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