仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「え? おい、大丈夫か?」

慧が慌てふためくのを見て、美琴は慌てて涙を拭った。

「ごめん、大丈夫。ちょっと気が緩んだだけ。慧といると油断しちゃって」

昔を知っているからか、または慧の人柄か、隠していた素の自分が出て来るのだ。

慧は目を伏せて何かを考え込んでいたけれど、決心したように強い口調で言った。

「なあ、やっぱり俺に悩みを話せ」

「え?」

慧らしくない命令口調に戸惑う。

「プライベートにズカズカ入るのは良くないと思って遠慮してたけど、このままじゃ美琴はストレスでおかしくなる。誰にも言えないで悩んでたんだろ? 絶対に秘密は守るから話せよ、話して楽になることもあるだろう?」

「……話せないよ。きっと慧に軽蔑されるもの」

「しないって。誓うから早く言えよ」

せっかちに促され、美琴は苦笑いになった。

「慧……相変わらず、強引」

「だってこうでもしないと美琴は口を割らないからな」

慧は昔から結構頑固だ。こうと決めたら譲らなくなる。

今は美琴の悩み相談を受ける気満々になっている。

「その押しの強さかなわないな……」

だけど、頼もしかった。
本当は誰かに聞いて欲しかったから。

でも相手が不快になるだろうと思い言えなかった。

きっと、こんな風に命令でもされない限りは、ずっと自分の心に秘めていただろう。

唇が震える。

だけど、一言発すると、水が溢れるように次々と言葉が溢れていった。

< 147 / 341 >

この作品をシェア

pagetop