仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「疎外感か……美琴の立場ならばそう感じるのも分かる」

慧は静かに言う。 美琴は続けた。

「弟達が次々と産まれて嬉しかったけど、寂しさも感じていた。私だけ家族じゃないみたいで。私は邪魔な存在なのかなって悩んだときも有ったし」

十歳しか違わない恵美子を母親と思えるはずが無かったし、新しい妻と子を持った父にも遠慮するようになっていた。

弟達は可愛いけれど、年が離れすぎているので兄弟と言うより親戚の子供と接するような、庇護して可愛がる感覚だった。

「美琴は家族に必要とされたくて頑張ったんだよな?」

「うん。逆にそうで無ければ家族の中に居ては駄目な気がしたから……弟達が心配なのは本当だけど、慧の言う通り自分自身の為だよね。私は必要とされたかったんだよ」

家族の窮地を救えば、父も恵美子も美琴を必要な家族と認識するだろうと期待した。
結果表向きは感謝されている。

けれど、それは自分達の環境向上の為利用したいから。

心から美琴を必要として、想ってくれている訳ではないのだ。

だから恵美子は、美琴に無理な要求をするのを躊躇わない。

悲しい現実を認めて溜息をつくと、慧の手が伸びて来て頭に触れた。

「慧?」

「そんな悲しそうな顔すな。血が繋がってなくても美琴を必要として大切に想う相手は必ずいるから」

慧は励ますようにポンポンと美琴の頭を撫でる。

「……そうかな?」

「ああ。無理をしなくても、美琴が自分らしくいるだけでいいと言ってくれる相手と必ず出会える。だから自分が必要ないなんて思いこむなよ」

慧はどこか悲しそうに微笑む。

「うん……」

美琴も僅かに笑みを浮かべる。
心が切なく、そして温かくなっていた。

慧は家族でも夫でもない。

それなのに、一番気持ちに寄り添ってくれるのを感じたから。
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