仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
しばらくの沈黙のあと、慧は座っていたベンチから立ち上がった。

「喉が渇いたな。美琴はここで待ってろ。何か買ってくる」

「うん、ありがとう」

離れていく慧の後ろ姿を見送りながら、目元を拭う。

(気を遣ってくれたのかな?)

感情が高ぶって涙が溢れそうなのを耐えていた。
彼はそれを察して、ひとりにしてくれたのかもしれない。

心を落ち着かせる為に、息を吐く。

目を逸らし続けていた家族との関係。向き合うと何て歪んでいたのだろうと自嘲したくなる。

だけど、慧のくれた言葉で救われた。

(何の見返りもなく、私を想ってくれる人がいる……そう信じていいんだよね)

相手の顔色を伺って、自分を犠牲にしなくてもいい。

それは何て自由なんだろう。


広い池で休む鳥をぼんやりと眺めていると、慧が戻って来た。

「お待たせ」

「ありがとう」

温かい紅茶を貰い、美琴は明るく笑った。

慧はホッとしたような表情になると、自分のコーラをゴクリと飲む。

「今でもコーラ好きなんだね」

中学生の頃、慧が好んで飲んでいたのを思い出す。

「ああ、これだけはやめれないよな」

「寒いのに、身体冷えないの?」

コートを着ていても屋外は寒い。
だから、美琴に温かい飲み物を選んでくれたのだろう。

「俺は平気。美琴は温かいのにしろよ。風邪をひいたら大変だからな」

「うん、頂きます」

紅茶が喉を通ると体がホッと温まる。

「美味しい」

「そうか」

慧は早々にコーラを飲み終えると、美琴の隣に腰かけた。

ゆっくりと口を開く。
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