仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「神楽さんと離れられるのか?」

慧が真面目な顔をして問いかける。

「分からない。酷い関係だけど、彼は離婚はしないって……」

「そうじゃない。美琴の気持ちの問題を聞いてるんだ」

「私の気持ち?」

慧の言葉の意図が掴めなくて、美琴は眉をひそめる。

慧はそんな美琴を見つめて言った。

「美琴は神楽さんが好きなんだろう?」

「えっ?」

美琴は驚き高い声を上げた。

慧には酷い所を見られている。
一希の文句を結構言ったし、何より政略結婚だと話してある。

けれど、慧は何もかもお見通しのようだった。

「好きだから、怒りが沸くんだろう? どうでもいい相手ならそこまで感情が揺れないと思う」

「私は……」

目を伏せて自分の気持ちを見つめ直す。

一希を好きだった。
幼い頃、彼に救われてそれからずっと想っていた。

大勢の人々の中で、一際存在感を放つ一希に憧れていた。

観原千夜子との関係を知ったとき、目の前が暗くなった。

だけど……。

「もう分からない。好きだったけど、拒絶され続けているうちに、少しずつそんな気持ちが削られていったみたい。ある日全部無くなったって感じたの。もう一希には何の期待もしない。昔優しかったあの人はもういないんだって……でも、今でも観原千夜子が絡むと私はおかしくなる」

こみ上げる苛立ちが止まらなくなる。

それは、まだ一希に想いが残っているからなのか。
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