仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
鳥崎優香〈とりさき ゆうか〉は中学時代の同級生だ。
二年生のクラスが一緒で仲の良い友人だった。
しかし、優香は二年生の三学期に転校し、それ以来疎遠になってしまっていた。

「優香……こっちに戻っていたの?」

「先月に戻って来たの、仕事するにはやっぱり東京がいいかなと思って。葉月ホテルで働いてるんだ」

「え? 慧の会社で働いてるの?」

驚く美琴に優香は頰を赤く染めて微笑む。

彼女は色白で、昔もよく顔を赤くしていた。
懐かしく思い出していると、優香は慧に視線を送りながら答えた。

「偶然なんだけどね。元は引っ越先の九州のホテルで働いたんだけど、いろいろあって辞めたの。東京で働くために就職活動をして葉月ホテルに決めたんだ。でも、まさか慧のお父さんの会社だとは思わなかったから驚いた」

「そうなんだ……たしかに驚くよね。就職先が昔の同級生の家だなんて」

「うん、転職して少しして同僚から慧のことを聞いたんだけど、本当にびっくりだったよ。それで思わず慧の家に電話しちゃったんだ」

美琴は目を瞬いた。

「家まで電話したの? 優香が?」

「そう。ほかの連絡先は知らないから」

「そうなんだ……」

意外だった。昔の大人しく人見知りだった彼女の行動とは思えない。

(でも、あの頃から十年も経ってるから、変わって当然だよね)

違和感を無視して美琴は笑顔を浮かべた。

「優香と再会出来て嬉しいよ」

「私も。ところで慧と美琴はどうして一緒に? 偶然会ったの?」

ニコニコと笑顔の優香の問いに、それまで黙っていた慧が答えた。
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