仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
他の友人ともアドレス交換していると、慧が耳打ちして来た。
「美琴、時間は大丈夫なのか?」
その言葉にハッとして時計を見る。
時刻は夜の十一時を回っていた。
(え? さっき確認した時は九時だったのに)
「私、帰らないと」
門限があるわけではないが、神楽本家の人達に一人で遅く帰って来たところを見られるのはまずい。
慌てて荷物を纏めていると、慧もコートを手に取り帰り支度を始めた。
「送るよ」
「え? 大丈夫だよ。慧はここにいて」
友人達は誰も帰る様子はない。おそらくまだまだ飲むのだろう。
「こんな時間に一人で帰したくない……俺たち先に帰るから」
慧は後半は友人達に言いコートを羽織る。
皆、「美琴、また飲もうね」と声をかけてくれるが、優香だけが全く違うことを言った。
「旦那さんのいる美琴が帰るのは分かるけど、慧はまだいいでしょう?」
そう言えば、優香は今まで誰と話していたのだろう。
美琴の近くにはいなかったから、彼女とは会話をしていなかった。
そんなことを考えていると、慧に背中をそっと押される。同時に彼の声が聞こえて来た。
「俺は美琴を送るから。鳥崎はゆっくり飲んでいけよ。新年会やりたかったんだろ?」
慧に促され出入り口に向かって歩き出したので、優香の表情は見えなかった。