仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
第十章 混迷〜一希side〜
『離婚は同意しない、忘れるな』
離婚したいと言い出し、心底嫌そうに顔を歪める美琴にはっきりと自分の意思を伝えたが、返事はなく冷ややかな目を向けられただけだった。
言動、表情全てが一希を否定していると実感し、動揺した。
美琴がこんな態度を取るようになったのはいつからだろうか……。
なぜ彼女は変わってしまったんだろう。
結婚して直ぐの頃はもっと穏やかな表情をしていたはずなのに。
少し疎ましく感じる程、常に一希の動向を伺い不要だと言っている食事の用意を欠かさなかった。
美琴が必要以上に自分に気を遣っていることに気付いていた。
自分の都合で結婚を推し進めた罪悪感からだろうがそんな態度が疎ましく、家に帰る足が遠のいた。
それでも時々顔を合わせると、避けているのに気付かないのかぎこちなく笑い近づいて来る。
なにかと一希の世話をしようとしていた。
全て拒否したが。
妻としての仕事をしようとしている美琴の行動自体が不快だった訳じゃない。
昔は美琴の境遇に同情していたし、年齢の違いから異性としては見られなかったが、良い子だと思っていた。
ただ、自分はまだ結婚したくなかったのに、人の弱みに付け込んで強引に話を進めた久我山家の人間だと思うと、すぐに受け入れることが出来なかった。
初対面のはずの千夜子を、訳もなく嫌う態度も傲慢に感じていた