仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
「……それは慧と距離を置けってこと？」

「うん、そうして欲しい」

優香にはっきりと頷かれ、心が重くなった。

けれど、優香の気持ちも少しは理解出来た。

いくら心配しているような関係ではないと伝えても、嫌なものは嫌なのだ。

自分だって、千夜子の存在が嫌でいつも心がぎすぎすとしていた。

美琴と優香では置かれた環境も立場も違うけれど、根本的な感情としては似ているのだと思う。

（私も慧を頼り過ぎていたかもしれない）

彼は頼りになるし、聞き上手だからいつの間にか一番の相談相手になっていた。

「慧は友達だしお世話になっているから縁を切ったりはしたくない。でも私の行動は無神経だったと思う。これからは考えて行動するから」

優香はその返事が不満だったのか、がっかりとした顔をした。

「分かった。あと、今日私が話したこと、慧には言いつけないでね」

「言いつけたりはしないよ。でも優香も私じゃなくて慧とちゃんと話したらいいんじゃないかな？」

「そんなのわざわざ美琴に言われなくても分かってるよ。じゃあ私帰るから」

優香は立ち上がると振り返りもせずに店を出て行った。

強気に見えた彼女も、気まずさを感じているのかもしれない。

再びゆっくりと自宅への道を歩いていく。

優香とのやり取りを改めて思い出し、憂鬱になった。

友人の恋の邪魔をする気はないけれど、慧と気楽に連絡を取れなくなるのは本当に残念だ。

（慧は優香をどう思ってるのかな？）

会話の中で優香の名前が出て来たことはないから分からない。

慧に言いつけるつもりは全くないが、さり気なく彼の考えを聞いてみようか。

（でも……慧が優香を女性として好きとかじゃなかったとしても、いつまでも甘えていられないよね）

彼だっていつまでも昔の同級生に構っている暇はないだろう。

今後は一方的に悩みを打ちあけるのではなく、対等の友人として付き合えたらいいと思う。
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