仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「いただきます」

煮魚をメインにした夕食をふたりで頂く。

好みのメニューでなくても一希は残さず綺麗に食べる。

「ごちそうさまでした」

食事が終わると、いつもは美琴は片付け、一希は書斎に行く。

けれど、今日は一希が席を外す前に声をかけた。

「一希、ちょっと話があるんだけど」

「話?」

椅子から立ち上がりかけていた一希が、再び席に座る。

「そう。別居の話。週末に久我山家に移ろうと思って」

一希が美琴から視線を逸らす。

彼は感情の動きが見えない方だけれど、今少し動揺したのではないかと感じた。

「それでいい?」

「……ああ、その時は俺も付きそう。久我山さんに話もしたい」

「そう」

内心がっかりして美琴は頷いた。

(私、一希が止めるのを期待していたのかもしれない)

未だにぐらぐらとする自分が情けない。

未練を断ち切るように明るく告げた。

「今日、慧と会ったの」

一希は顔をしかめた。

けれど以前のような文句を言うことはなく、「そうか」と答える。

「離婚後の生活の相談をしていて……仕事をどうするかとか」

「生活の心配はしなくていい。離婚しても美琴に不自由はさせないから、しばらくゆっくりするといい」

「そうはいかないよ。健康な大人が何もしないでいる訳にはいかないし、それにゆっくりなら一希と結婚してから十分していたもの。だから私の先のことは気にしなくていいよ。結婚期間はびっくりするくらい短いし、実家も最近は自分達で頑張ってくれているから、私はお金をあまり必要としていないし」

一希は何か言いたそうにしながらも、言葉にはせず目を伏せた。

その姿がなぜか寂しそうに見えて、美琴もつられて切なくなる。
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