仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「神楽のお義父様が倒れた?」
驚く美琴に、祖父久我山俊三は平然と頷いた。
「そうだ。先ほど連絡があった」
「そんな……お正月に挨拶したときは元気そうだったのに」
「あえてそう振る舞っていたんだろう。彼は大分前から体調を崩して回復の見込みもないことから仕事を引退している。予想よりは早いがいつかこうなると皆分かっていた」
冷静な祖父の言葉に、美琴は目を見開いた。
「確かに体力がなくなったので一希に後を譲って引退したと聞いてましたけど、そんなに悪いなんて」
一希も何も言っていなかった。
(でも彼が知らなかったわけがない)
美琴が知らされていなかっただけなのだ。
「あの、私看病に行った方がいいですよね?」
別居しているとはいえ、まだ神楽家の嫁だ。
けれど祖父は首を横に振った。
「神楽は入院した。専属の看護スタッフも付いている。美琴がやることはないから心配しなくていい」
「でも……」
「それに彼も病室でやりたいことがいろいろ有るだろう。美琴が行けば逆に迷惑になる』
「それはそうかもしれないけど」
嫁と言っても滅多に顔を合わさなかったのだし、心を許せる相手ではないだろう。
それでも黙っていられずに別居後初めて一希に連絡をした。