仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
（一希は彼女を恋人として紹介していなかったの？）

少し不自然な気がした。
自分の秘書にまでした恋人を、家族に紹介していなかった理由がわからない。

「観原くんはどうしてここに？」

義父は美琴と同じ内容の質問をした。
千夜子は美琴の時とは違って、詳細に答えた。

「山東の工場で事故が発生しました。現地スタッフが負傷した為、その報告に参りました」

「事故か……あれほど注意しろと言ってるのになくならないもなだな」

義父は溜息を吐くと、黙って控えていた美琴を振り返った。

「美琴さん、一希は明日出社出来そうかな？」

「はい、一希さんも明日は出社すると言っていました」

義父は頷くと、千夜子に向き直り言った。

「観原くん、その件は長浜顧問に指示を仰ぐように」

「え？」

千夜子の顔色が変わる。

「一希への報告は明日でいい。アジアの工場は長浜顧問の管轄下だから彼に状況を伝え、対処を依頼するように」

「あ、ではその旨を神楽社長に報告いたします」

「それは必要ない。一希には私が話しておくから、君は会社に戻りなさい。

「しかし、他にも懸念事項がありますし……」

千夜子はどうしても一希に会いたいようで、理由をつけて帰ろうとしない。

その態度が義父を苛立たせたようで、彼は厳しい表情で千夜子を見た。
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