仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
千夜子はいつのまにか帰ったようだった。
人の気配が完全に無いことを確認してから、扉を開ける。
部屋はすっかり薄暗くなっていた。
時計を見れば、針は七時三十分を指していた。
全身酷い倦怠感に襲われ、美琴はだらしなくソファーに座り込んだ。
大声を上げた上に泣いたからか、力が全て抜けてしまったようだった。
対照的に思考はクリアで冴え渡っている。
今まで悩んでいたのが嘘のように、心は凪いでいた。
(一希も千夜子も人じゃない。思いやりも気遣いも何も必要ないんだわ)
そう気付くと楽になった。
しばらくすると、玄関の扉が開く音がした。
一希が帰って来たのだろう。
続いてリビングの扉が開く音がしたので目を遣れば、不機嫌そうな一希の姿があった。
「お帰りなさい、早かったのね」
座ったまま声をかけると、一希はその整った顔を歪めた。
「また千夜子に酷いことを言ったそうだな」
「酷いって?」
「目障りだと言って、追い出したんだろう!」
一希が怒りを露わにする。
「千夜子を責めるのは許さないと言ったはずだ!」
厳しく言われ、そう言えば以前も同じようなことを言われたと思い出す。
あの時はショックで頭が真っ白になったけれど、不思議ともう心に響いて来なかった。
だから自然と口にしていた。
「別に許してくれなくていいわ」
「なんだと?」
「それよりもここは私の家でもあるのだから、観原千夜子の出入りは今後一切認めないわ。次に見かけても同じように追い返すから。彼女にもそう伝えておいて」
それは、自分のものとは思えないほど冷ややかで、無感情な声だった。
人の気配が完全に無いことを確認してから、扉を開ける。
部屋はすっかり薄暗くなっていた。
時計を見れば、針は七時三十分を指していた。
全身酷い倦怠感に襲われ、美琴はだらしなくソファーに座り込んだ。
大声を上げた上に泣いたからか、力が全て抜けてしまったようだった。
対照的に思考はクリアで冴え渡っている。
今まで悩んでいたのが嘘のように、心は凪いでいた。
(一希も千夜子も人じゃない。思いやりも気遣いも何も必要ないんだわ)
そう気付くと楽になった。
しばらくすると、玄関の扉が開く音がした。
一希が帰って来たのだろう。
続いてリビングの扉が開く音がしたので目を遣れば、不機嫌そうな一希の姿があった。
「お帰りなさい、早かったのね」
座ったまま声をかけると、一希はその整った顔を歪めた。
「また千夜子に酷いことを言ったそうだな」
「酷いって?」
「目障りだと言って、追い出したんだろう!」
一希が怒りを露わにする。
「千夜子を責めるのは許さないと言ったはずだ!」
厳しく言われ、そう言えば以前も同じようなことを言われたと思い出す。
あの時はショックで頭が真っ白になったけれど、不思議ともう心に響いて来なかった。
だから自然と口にしていた。
「別に許してくれなくていいわ」
「なんだと?」
「それよりもここは私の家でもあるのだから、観原千夜子の出入りは今後一切認めないわ。次に見かけても同じように追い返すから。彼女にもそう伝えておいて」
それは、自分のものとは思えないほど冷ややかで、無感情な声だった。