毒林檎


「おはようございまーす。」

いつも通り腑抜けた声で挨拶をしてデスクにつく。

「うーっす」

みんなの返事もいつも通り腑抜けている。
それが私の職場の朝の風景。

彼の姿が見えない。
デスクのパソコンは立ち上がっている。
それを一瞬で確認すると、私はメールチェックもそこそこに喫煙所に向かう。

予想通りだるそうにタバコを吸ってる彼を発見。

「おはようございまーす。」
皆への挨拶と変わらないように気をつけて、私は腑抜けた声で挨拶をする。

「はよ」
彼も腑抜けた声で挨拶を返してくれる。

そこからはタバコの煙のみで会話はない。

そうしているうちに他の社員も喫煙所に詰め掛ける。
休憩時間まで吸えないこともあり、みんな出社後すぐに喫煙所で一服するのも見慣れた光景だ。
人数が増えてくると狭い喫煙所は満員電車のようにパンパンになる。
詰めれば詰めるほど彼との距離が近くなる。
ドキドキしているのがバレないように。
私は平然とタバコを吸う。

いつから彼を目で追うようになったのか、今となってはわからない。
わからないが私は彼を見ているだけで充分幸せだったのだ。
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