章吾さんは、そこまで一気に話して、きっちり腰から綺麗にお辞儀をした。

「君は、絆の事情を知っているのか?」

もともとバリトンボイスの天くんの声が一段と低い。

絶対、怒ってる。

「交際を申し込んだ時に絆さんから
伺いました。
小川本部長や宮本専務から、出世の後押しは
ないという事も伺っております。」

「君は、出世には興味がないと言うのか?」

「いえ、出世は実力でしてこそ、意味がある
ものだと考えてます。
コネで出世したところで、実力が
伴わなければ、自分も会社も窮地に
追い込まれると思いますから。」

章吾さんは、天くんに怯まず、まっすぐに顔を上げて言う。

「今日は、時間も遅いですから、今度、改めて
ご挨拶に伺います。
絆さんを遅くまで連れ回して申し訳ありません
でした。
失礼します。」

章吾さんは、一礼をした後、私に優しく微笑んで、

「絆さん、またね。
おやすみなさい。」

と去っていった。
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