その時、部屋の電話が鳴った。

仁くんは、何か言いたげではあったけど、諦めて電話を取った。

「はい。
ーーー
分かりました。ありがとうございます。」

受話器を置いて、仁くんは私を見る。

何か言いたそうだったけど、仁くんが言ったのは、必要事項だけだった。

「ピアノ、準備ができたから、どうぞって。
絆、行こう。」

仁くんは、私の手を取り、歩き出す。



着いた先は、披露宴会場のような大広間。

テーブルや椅子は全て片付けられ、グラントピアノが1台、ポツンと置かれていた。

仁くんは、部屋の隅に積まれていた椅子から、一つ取り出すと、ピアノの右側に置いた。

「ようこそ、春山仁ソロコンサートへ。
どうぞ、おかけください。」

仁くんに促され、私はその特等席に座る。

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